作業所って、自分を含めた一般の人たちが、中に入る機会は、ほとんどないと思う。
その存在は、関わりがない限り、想像がつきにくい空間だろう。
生活介護事業所。とマイルド五個荘はそのような看板を掲げている。
作業所という言葉を知っていても、そこに種類があるとは僕たちにはわからない。
一般企業では、働くことが困難ではあるが、仕事の提供を作業所内ですることによって、知識や能力の向上につなげていく。そんな目的とする施設が、マイルド五個荘のような生活介護事業所というわけだ。
つまり、障害の程度によって、分けられているということになろう。
そのマイルド五個荘を拠点に置く障がい者の人たちが、大部屋で仕事をしていた。
作業内容は、工具箱の鍵の組み立てや、事務用品のキャスターの組み立てなどだ。近くの工場などから仕事をいただいている。
単純な仕事の流れではあるが、単調なゆえに、今日も明日もこの作業が続くと思えば、僕らには耐えられない作業内容かもしれない。
しかし彼らはそれをこなす能力が優れている。と、所長の横田眞さんが言う。
飽きることはなく、自分からやめることはない。そこに材料がある限り、最後までやり通すという。
そこにそれぞれのこだわりがあり、個性があり、得意不得意がある。それを見極めていくのが職員の重要な役目になる。
「はい、どうぞ!」と材料を目の前に置いただけでは、それに興味を持ってもらえるかは期待できない。気分を乗せていくには、職員が配置を変えてみたり、色をつけてみたり、数えやすくしたり、彼らの心地よさをコントロールすることで、その動きを商品の完成につなげている。
きっと彼らも、好きな形や動きに出会ったことで、スイッチが入る。
職員と障がい者のみんなが合致することで、機械的な動きが、フル稼働することになる。
彼らは、最終的な商品の形に興味があるわけでなく、10個ずつ分けることや、色を揃えることや、几帳面に配置することで、自分の存在をアピールする。
段取り良く仕事をこなすことなどは、彼らの生まれ持ってきたものの中には存在しないのではないだろうか。
だからこそ、職員の方々は、待つことを大切にしているような気がしたのだ。気を長く持ち急いでもしょうがない。
だからと言って、企業相手であるからには、納期というものが必ず付いて回る。
段取り良く、残った作業をこなすのは、当然職員の残業仕事の一つになっている。
作業所の中では、そんな職員との駆け引きが見ものだ。アイデア満載の場であるとともに、相手に寄り添い、理解し合わないと、小さな歯車が回っていかない。回り始めるために、職員は試行錯誤しながら考える。
作業所内になぜかピンクレディやキャンディーズなど、単純作業では、リズムが取りにくい音楽がガンガン流れているが、みんなはおかまいなしだ。
こんな雰囲気を面白おかしく盛り上げるのも横田所長の役目だ。
横田所長は、元中学校教師だったが、働き盛りで教師生活をやめ、福祉の仕事に飛び込んだ少し変わった経歴の持ち主だ。
「この現場、すごく面白いんです。一人一人の個性やこだわりが強すぎてね。ハハハ………。前職との共通点は、人と関わっているということくらいですかね」
福祉業界らしくない所長だからこそ、福祉施設の匂いも感じない。僕がすんなり溶け込めたのも、そういった雰囲気を作ってくださったおかげだとも思う。
内職仕事とは別に、ビリビリビリっと新聞を破っている人もいれば、さらに細くちぎる人もいる。
この人たちは、マイルド五個荘のオリジナル商品の『お願いポンポコ』の材料である新聞を細くしているのだ。
「これ、作業自体はものすごく大変なんですわ!こうして、大量の新聞紙を細く破ってくれる人もこの作業所で必要なんです」
要領よく仕事をこなすことは難しいだろうが、それをいかにして動かし、ロスを出さないようにするかと、職員はいつも考えているようだが、こうした過程があるからこそ、障がいを見つめることに時間をさき、考えることにつながっていると思えるのだ。
もっともっと僕たちと街ですれ違う存在であってほしいと感じた、そうなっていくことで、彼らももっと混ざり合い、地域も素敵に成長していくと思うのだ。