グローの施設一覧

今日を忘れても、また明日〜大西暢夫の写真と言葉で綴るGLOW〜

ログハウスのハイカラな建物に、送迎車に乗ってきたお年寄りたちが入って行く。

モダンな田舎の喫茶店のような感じがした。

『さくら番場』変わった名称の、通所の認知症のデイサービスだ。

自宅から通ってくる認知症のお年寄りたちの日帰りの施設ということになろう。

デイサービスやデイケアサービスという名称は聞く機会もあるが、認知症デイサービスとなると、確かに聞き慣れない。

滋賀県内でも珍しい施設だと言う。

管理者の磯尾佳代子さん。「大事な話しよ!」と言って、トイレやお風呂に誘い出す。「あ。そうか~」といいながら、ゆっくりとお年寄りが立ち上がる。介護する側の話術は、天性のものなのか。とてもうまい!

どれも同じように聞こえていたサービスだったが、細分化されていたことに今更気がついた。

となると、一般のデイサービスに通う認知症のお年寄りと、さくら番場のような専門性をうたった認知症デイサービスに通うお年寄りの違いって何だろうかって考えた。

なぜならば、認知症の症状を持つお年寄りは、どちらにも通っているからだ。

管理者の磯尾佳代子さんにお訪ねした。

「認知症に特化していない一般のデイサービスだと、人数も多く細かい個別の対応に目が行き届かないことだってあります。

さくら番場の場合は、一番多い時で12名。個々の様子を見ながら、その人にあった手厚いケアができるんです」と話してくれた。

昔から手を動かし仕事をしてきた人は、たとえ認知症になったとしても、完成まで丁寧にこなす。そのように若い時からやってきた証しだろう。

湯気の立ちこめたお茶が出てきた。

じいさん、ばあさんがいつもの場所に腰をかけている。

僕という珍しい客に、「ほお、いいカメラを持って、写真でも撮りにきたんか!」と気軽に声をかけてくれた。

この話し方のタイミングに、僕は感心した。

言葉の駆け引きのような緊張感もなく、よそよそしさもない距離の保ち方は、きっとさくら番場に訪ねてくるお客さんの心をつかむことだろう。とくに話し好きなばあさんたちがうまいという印象を持った。

じいさんは、でん!と椅子に座り、気を使うのは常にばあさん。その役目は、どこの家にでもある光景だろうが、その時点で認知症という言葉は、僕の頭の中からすっかり消えていた。

女性は歳をとってもまめに働き続ける。よくしゃべるし、よく笑う。主張する生き方って、元気な源だとここに来ても思う。

「さてこの名前はなんでしょう!」

新聞に紹介されている当て字のような子どもの名前を読み当てている。

「るいき??」

「それ、名前か!」

「なんじゃ、その名前は!」

自分の孫ならその名もかわいいだろうが、人の子なら、もう、言いたい放題!

遠慮なく、野次が飛ぶ。朝からの笑いはそんな所から始まった。

部屋に演歌が流れる中、その合間に、一人、又一人とお風呂やトイレへと消えて行く。そのさりげなさやタイミング。声の掛け方、何もかもさすがである。

「どこへいくんや!」

耳に近づき、「ちょっといいとこ~」と雰囲気ある声をかける。

「そうか!」

そのやり取りも、隣のお年寄りたちに気づかれていない。その人にあった誘い方をしているのだろう。

さくら番場の昼食は、特別養護老人ホーム「ふくら」から届く。しかし、完成されたお弁当ではなく、盛りつけやちょっとしたきざみなど、いつも家でやっていることをする。

昼食。老人ホーム「ふくら」から届けられた。

さて、ばあさんの大仕事が始まる。

材料を包丁で切る姿も、母の安心感のようなおもむきを感じた。手際よくざくざく切る姿はおいしそうに見えるものだ。

お皿を出す役、盛りつけ役など、準備はお手のものだ。

そうして昼食が始まった。

ただ働いてもらうだけではなく、分からなくなってしまったことやできなくなってしまったことなどを助け合いながら、病気を感じさせない時間や空間を共有して行く。

ここでいうと嫁はさくら番場のスタッフ。この仕事は姑の役と言わんばかりに率先して、昼食の盛りつけをする。

さくら番場という居場所は、お年寄りにとっては、日常の異空間であると同時に、できなくなった苦しさから解放される場所でもある。

素人には分かりにくい細分化された施設だが、そのことによって、幸せな余暇を過ごすことができる人だって多くいることがわかった。

それだけさくら番場の空間はゆったりと贅沢なものだが、お年寄りもスタッフも持ちつ持たれつという関係が成り立っている。

昼食後、近所の子どもも参加してのそうめん流しが始まった。よ~く食べる人たちだ。

昼過ぎ。

「今日は、流しそうめんにスイカ割りがあります」と磯尾さんの大きな声が響く。

それに合わせ、地元の兄弟が遊びに来てくれた。

「まあ、かわいいね、何年生?」

みんなの目は三人に釘付け。

流しそうめんが始まると、この子たちが少しでも多くそうめんが取れるように、気をきかせた。

スイカ割りでも、「右!」「違う、もっと左!」

歳の差、約70歳。知らないものどうしが縁あって出逢い、会話する。そこで笑いが生まれ、話題が生まれる。さくら番場の素敵な空間が地域の中に溶け込んでいるからだ。

しかしそんな楽しい時間はすぐに終わった。

送迎の時間が近づいた。

「今日は楽しかったね。あの子どもたち、本当にかわいい子だった。あの子は妹で、あの子はそのお兄ちゃんだったね」

よく覚えていた。

「そうめんやスイカはおいしかったですか?」

「ん?」

そうめんよりスイカより、子どもたちが強く印象に残ったようだ。

今日を忘れても、また明日。

さくら番場が、お迎えに参ります。

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